植物工場における光の重要性

植物にとって太陽光は最善の光源とは言い難い?!

植物工場にて、効率良く植物を成長させるには、複雑に絡み合う環境条件を考慮し、適切な管理を行う必要があります。

その中でも、特に重要なファクターが「光条件」となります。「光強度(光の強さ)」「スペクトル(波長)」「日長(日照時間/照射時間)」の3要素を調整することで、植物の収穫時期を早め、高付加価値化が可能になります。

 

光強度について

植物の成長速度を高めるために、強い光を照射することは必ずしも良い結果につながるとは限りません。以下の図1は、光強度とCO2交換速度(=光合成量)の関係を示しています。このグラフを見ると、光の強さとともに増大していますが、ある時点(Cの部分)から飽和していることが分かります。

つまり、光強度を増加させても、光合成量(植物の成長量)が変化しなくなる点があるわけです。

この光飽和点は植物体によって異なり、トマトでは高く、レタスやハーブは低いことが知られており、植物工場では、この光飽和点よりも少し低い領域で成長させることが、効果的だとされています1)

植物工場における光の重要性図1 光強度がCO2交換速度に及ぼす影響2)(このグラフでのCO2交換速度とは、植物の光合成量を示しています。)

 

一般に太陽光を光源として栽培すると、図2から分かる様に、冬期や雨天時には光が弱すぎ、夏期の晴天時には光が強すぎます。(図2は1年の太陽光の光強度を測定したグラフです。)

植物工場における光の重要性図2 太陽光の光強度の周年変化3)

 

図2のように、季節によって太陽光の光強度は大きく変化します。屋外での栽培を行う場合、品質向上や収穫時期の延長であれば補光や遮光で補えますが、露地栽培での収穫時期が冬のイチゴを夏に、夏のトマトを冬のシーズンに栽培することは不可能であり、周年・安定生産は、非常に難しくなります。

一方で、イニシャルコストやランニングコストが発生してしまう点(※)において太陽光に劣る人工光ですが、各植物体に適した光強度への設定が可能なため、光合成量(成長量)を最大限に発揮できる環境を作りだすことができます。

また、一年を通して同じ生産性を維持できるので、「計画的で安定的な経営」を実現でき、露地栽培での収穫時期と差別化をはかることで、売上増加につなげることが可能です。

(※) ここ数年の間に、LEDの照明性能は向上し、パネル自体の価格は低下しています。したがって、イニシャルコストとランニングコストを抑えることが、徐々に可能になってきています。

 

スペクトル(光波長)について

植物の重量や栄養成分、食感は光合成(特にクロロフィルの働き)によって決定づけられています。光合成は「6CO2+6H2O→C6H12O6+6O2」という反応をします。

つまり、特定の波長の光エネルギーを植物成長に必要な化学エネルギーへと変換する働きをクロロフィルで行い、そのエネルギーを使って二酸化炭素(CO2)から炭水化物(C6H12O6)と酸素(O2)を作り出しています。

太陽光の波長は300~3,000 nmの範囲に分布していますが、光合成に有効な波長は400~700 nm(可視光)です。つまり、植物成長に大きく関わる波長は、太陽光の50%以下であることを意味します。(800 nm以上の波長は、加熱作用を及ぼすだけで光合成には不要です)

さらに、光合成は波長450 nm(青色)と波長660 nm(赤色)付近の光を好んで吸収していることが多くの研究で解明されています。図3の太陽光(自然光)のスペクトルと図4の光合成を行うクロロフィルの光吸収スペクトルを比較すると、最大ピークが異なっている事が分かります4)

植物工場における光の重要性図3 光のスペクトルの違い4)

 

植物工場における光の重要性植物の栄養成分や食感注1)は光波長の含有率によって変化します。光波長450 nm(青色)を照射することで、カロテノイドやポリフェノールが増加しますが、植物によっては苦味成分が増え、葉が硬くなる場合もあります。

また、光波長660 nm(赤色)を照射すると、葉が柔らかくフレッシュ感を保てます。赤と青の混合光を照射することで、アントシアニンやビタミンCを増加させることも可能です。

つまり、各植物に適した赤色と青色の波長を組み合わせて照射すれば植物に高付加価値を付加できることになります。

 

植物に「緑波長」の光は必要なのか?!

理論的には赤と青の波長だけで植物を栽培することが可能です。しかし、植物は長い歳月をかけて太陽光下で進化してきました。

ナスやリーフレタス、ヒマワリを使用した研究において、赤色光や青色光のほかに緑色光も成長に影響を与えている報告6)があるように、他の波長と植物との関係性も分からない点も多く、研究が進められています。

 

栽培条件や野菜の種類によっては、赤・青波長のみで急速に生長させることも可能ですが、条件の異なる施設や全ての野菜に同じノウハウが適用できるわけではありません。リーフレタスにて成功したからといって、バジルやルッコラなどのハーブ野菜では生長が悪くなる場合もあるかもしれません。

弊社でも、多くの植物工場プラントに関する設計・デザイン、資材の選定などのアドバイスを行っておりますが、多品種の野菜を栽培する際には、ワイルドレンジ(広範囲に渡る)波長が含まれている白色LEDを提案することが多いです。もちろん、施設の事業プランや目的に合わせて、赤・青波長のLEDを採用する場合もあります。

 

注1) ここでいう「食感」とは、葉の硬さや柔らかさのことを指します。専門的な用語で説明すると、植物の葉には青色光の光を吸収するクリプトクロムとフォトトロピン、赤色光を吸収するフィトクロムが存在しています。

それぞれの受容体は植物の形態形成に大きく作用することが知られており、赤色光でホウレンソウの茎を長くする作用が、青色光で葉緑体を光の方向へ集める働きがあります。これらの作用によって、野菜を食べた時の歯ごたえが大きく変化するという仕組みです。

 

日長(日照時間/照射時間)について

植物工場における光の重要性植物も睡眠が必要です。1日の光合成量は日長の積算なので、照射時間が24時間の場合、原理的には最も成長速度が速くなりますが、植物にも人間と同じく休息時間が必要です。また、植物によって必要な時間の長さも異なります。(光周性=光周期に関する性質)。

レタスやホウレンソウ、アブラナなどの短時間の睡眠(暗期)で昼間の時間(明期)を長く過ごしたい「長日植物」、イネやダイズ、シソなどの昼間(明期)の時間を削ってでも長時間の睡眠(暗期)を求めている「短日植物」の2つに分類できます。

 

各植物体に適した日長時間(明暗周期)に設定することで、植物にストレスを与えず成長速度の促進が可能になります。逆にいうと、長日植物に対して長期間の暗期、短日植物に対して短時間の暗期時間を与えると成長速度を下げ、抽台(ちゅうだい) 注2)を防げます。

以上のように、太陽光では目的に合った植物栽培が極めて難しいですが、植物工場にて人工光を使用すれば、成長速度をコントロールして最適な状態で収穫できるようになります。

 

注2) 抽台(ちゅうだい)とは植物の茎が伸びて花が咲くことをいい、特にホウレンソウは長日条件で、この反応を起こす場合が多い。抽台をすると食味が落ちるので、これを回避し、品質を高めることができる。

 

植物工場による人工光栽培のメリット

  • 植物の光飽和点に合った光を照射できる→植物にとって最適な環境をつくりあげ、生産性が向上する
  • 周年生産の実現→露地栽培では難しい季節であっても、植物の計画的な栽培が可能となる
  • 明期と暗期の時間設定が可能→食味を落とさずに、商品価値を高めることができる

 

参考文献

1)高辻正基. 図解 よくわかる植物工場. 日刊工業新聞社 2012, pp 40-45

2)古在豊樹, 後藤英司, 冨士原和和宏: 最新施設園芸学. 朝倉書店 2016, pp18-21, 49

3)Takafumi Tohyama, Yukitsugu Ishii, Yasuo Kamuro and Katumi Okabe: Seasonal light quality for plant growth. Regulation of Plant Growth & Development 2001. 36:202-207

4)国立研究開発法人科学技術復興機構, 2015(http://sciencewindow.jst.go.jp/html/sw57/sr-life)

5)守康則, 北久美子, 宮崎節子: クロロフィルの安定性に関する研究. 1964, 15:1-5

6)平井正良, 雨木若慶, 渡邊博之: 発光ダイオード(LED)による単色光照射がナス、リーフレタス、ヒマワリの節間伸長に及ぼす影響. 植物環境工学 2006, 18:160-166