植物工場における薬用植物「甘草」の市場動向~各社による栽培&撤退事例~

植物工場でも「甘草 カンゾウ」の完全栽培は可能

過去にも、補助金を活用しながら民間企業や大学が連携して、完全人工光型の植物工場にて種子から「甘草(カンゾウ)」の栽培に成功していますが、漢方薬などに利用できるサイズまで大きく成長させるためには、1年~1年半は必要となります。

各社とも栽培技術は確立しているものの、施設の回転率を考えると、あまりにも採算性が悪く、植物工場による量産について、事業化されていないのが現状です。

植物工場における薬用植物「甘草」の市場動向~各社による栽培&撤退事例~
鹿島建設(+千葉大学、医薬基盤研究所)による栽培事例。2010年の発表写真となります。

今後の研究開発により、さらなる収穫期間の短縮も可能かとは思いますが、甘草(カンゾウ)は、リーフレタスのように年間20回転以上もできないため、甘草(カンゾウ)で利益を出すためには、事業プランの工夫や発想の転換が必要になります。

 

甘草の市場動向~漢方薬70%以上に使用~

植物工場による栽培研究にて「甘草(カンゾウ)」が、なぜ選ばれるのでしょうか?薬用植物には、ムラサキ(紫根・シコン)、ウコン、ボウフウ、トウキ、シャクヤクなど、たくさんありますが、その中でも「甘草」が最も利用されている生薬の一つだからです。

  • 一般用漢方製剤において処方の70%以上に使用
  • ツムラの漢方薬129種類のうち、94種類で甘草を使用(=約73%)

 

甘草の輸入量は約1,700トン(2008年)、ほぼ全量を輸入に依存

日本の甘草(カンゾウ)の輸入量は、少し古いデータですが、2008年度で約1,700トン。少なくとも90%以上は、海外からの輸入に依存しており、輸入量のうち、70%以上は中国が占めています。(100%輸入に依存している、という調査報告もあります)

また、漢方薬向けの高品質な甘草(カンゾウ)だけに対象を絞ると、ほぼ全量を中国から輸入しています。

私たちが使っている漢方商品の70%以上に甘草(カンゾウ)が使用されており、高品質な甘草(カンゾウ)は、ほぼ全量を中国から輸入している

甘草(カンゾウ)は、甘味やコクを出すために「醤油や味噌」などにも使用されていることから、高品質な「漢方薬・生薬用」と「食品用」の2つがあり、当然ながら植物工場では「漢方薬・生薬」用途として栽培することになります。

こうした、中国の一極集中を回避するため、日本国内での植物工場による甘草(カンゾウ)の栽培研究や、日本企業によるカザフスタン、オーストラリアでの生産もスタートしています。

 

生薬の国内生産は12%、全体の8割を中国から輸入

甘草だけでなく、漢方薬の原料となる生薬全体も、9割弱が輸入であり、その大半を中国に依存しています。日本漢方生薬製剤協会によると、生薬の国内生産は12%であり、中国からの輸入が約8割、その他の国が残りの数%を占めています。

 

漢方薬の国内市場規模「2,000億円」(2016年)

野村総合研究所によると、国内の漢方薬市場(国内生産額)は、2007年の1,131億円から、2015年には2,000億円超になる、と予測しています。

なお、保険適用の対象となる医療用漢方薬市場において、シェア84%をもつツムラの調査によると、2016年度における漢方薬(医療用漢方製剤)の市場規模は、1,481億円と推計されています。

漢方薬市場は、2000年度を底にして着実に市場が拡大しています。保険適用の対象となる医療用医薬品に対しては、2年に1回の薬価改定が行われますが、漢方薬はその有用性が認められ、漢方医学の普及も進んでいることから、薬価の引下げを吸収し、今後も堅実に成長する見込みです。

 

中国による輸出規制・価格の高騰

中国では1995年から甘草の輸出規制が開始。欧米や中国国内の需要が拡大するにつれ、需給バラスが崩れ、2000年前後から価格が高騰し続けています。2000年前後の輸入価格と比較すると、過去5~6年で価格も1.5倍以上になっており、レアプラント「希少植物」とも呼ばれています。

 

植物工場による甘草(カンゾウ)の栽培事例

最近は少し落ち着いたのか、植物工場による甘草(カンゾウ)栽培のニュースが少なくなりましたが、各社による過去の栽培事例・関連記事を紹介いたします。

  • 三菱樹脂が中国から種を輸入し、種から薬効成分の含まれる苗を栽培することに成功
  • 鹿島建設は、医薬基盤研究所薬用植物資源研究センターが苗の提供や栽培法開発を担い、千葉大が有効成分を蓄積できる条件の研究などを実施
植物工場における薬用植物「甘草」の市場動向~各社による栽培&撤退事例~
三菱ケミカル(旧・三菱樹脂)による植物工場を活用した甘草栽培

甘草は根に主な有効成分(グリチルリチン)が含まれるが、肥料の入った水で栽培すると根が太くなりにくいのが課題だったが、鹿島建設などは、栽培中に適度なストレスを加えることで根の肥育を促すことに成功。通常、露地栽培では4年以上かかる収穫期間を1〜1.5年に短縮できている。

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甘草(カンゾウ)の露地栽培事例

以前は、多くの企業が植物工場による甘草(カンゾウ)栽培を研究していた。実際に栽培することは可能だが「各社ともに採算性が合わない」と結論付け、近年では「露地で栽培し、コストダウンをはかろう」とする企業も出現しています。

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初期投資と採算性が合わず試験栽培を中止

富山市は2012年度、植物工場による薬用植物「カンゾウ」の試験栽培を予定していましたが、億単位の初期投資と、海外産に対して栽培コストや価格面での優位性が見込めず中止しております。

甘草だけでなく、富山県内では、県の薬事研究所が漢方薬の原料となる「シャクヤク」のブランド化に向けた実験栽培も進めており、薬用植物の地産地消や「薬都富山」の確立を目指し、別の形で価格面でも市場に対抗できる有望品種の選定を行っているようです。

 

ツムラ、中国現地・露地栽培による量産技術の確立

  • 主成分のグリチルリチン3.5%を超える甘草を栽培することに成功
  • 栽培期間も、従来の3年から1年3カ月に短縮

ツムラは、中国現地にて主に露地栽培にて量産技術を確立。中国医薬保健品股分、北京中医薬大学との共同研究により、中国での特許取得も行っています。

植物工場における薬用植物「甘草」の市場動向~各社による栽培&撤退事例~

同社は2001年から中国にて栽培化に着手。当初は、日本の医薬品規格基準にかなう成分量を満たせなかったが、自生地を調査し、粘土質の土壌にするなど条件を整え、主成分のグリチルリチン酸含量を平均3.5%に高めることに成功しています。さらに、大型機械を導入し、約70ヘクタールでの大規模栽培(露地)と収穫も行っています。

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結論: 植物工場による甘草(カンゾウ)のビジネスチャンスは?

完全人工光型植物工場でも、甘草(カンゾウ)の完全栽培は可能であり、既に各社による栽培研究で、漢方薬として利用可能な有効成分基準(主要有効成分「グリチルリチン 2%以上」)は超えている

ちなみに「甘草(カンゾウ)」について、日本薬局方では、第16改正(2011)まで「グリチルリチン酸 2.5% 以上を含む」と規定されていましたが、第17改正(2016)から「グリチルリチン酸 2.0% 以上を含む」に改正されています。

中国に依存している現状を解決するため、安全保障やリスクヘッジのためにも国内での甘草栽培が必要

全てを植物工場(人工光型)で栽培すると回転率が悪く・採算が合わない。よって、その中間のような形として「高品質な苗」だけを植物工場で生育しその後は、露地や温室ハウス(自然光を活用)に優良苗を定植して栽培するような方法も考えられる

甘草(カンゾウ)で利益を出すためには、事業プランの工夫や発想の転換が必要