植物工場で使用する種子の種類や価格、保存方法などの注意点

植物工場で使用する種子の種類

植物工場(以下、全て完全人工光型の植物工場として話を進める)では、栽培する野菜・植物の品種に関わらず、主に「2種類」の種子が利用されています。1つは、何も加工されていない、そのままの種子=「生種」(きだね)、そして、天然素材の粘土鉱物にて、種子をコーティングしている「コート種子の2種類です。

露地や施設栽培向けには、殺菌剤などの農薬を種子に塗布した「フィルムコート」など、様々なタイプの種子がありますが、植物工場では「コート種子」のみ利用されています。

以下の写真は、(右)が「赤軸ミズナ」の生種(きだね)で、何も加工されていない、そのままの種子です。一方、(左)は「コート種子」で、1粒が大きくなっております。植物工場で利用するコート種子は「リーフレタス」が多く、その他の作物(ハーブ類など)は、生種(きだね)のまま使用されています。

植物工場で使用する種子の種類や価格、保存方法などの注意点

 

コート種子(コーティング種子, ペレット種子)

コート種子について、商品によっては「コーティング種子」「ペレット種子」などとも呼ばれていますが、基本的には同じものです。

植物工場では栽培室内が無菌に近い状態となるため、殺菌剤などの農薬を種子に塗布した「フィルムコート」などは不要となります。つまり、食味や収量は良かったが、病気に弱くて普及しなかった昔の品種も、植物工場では栽培できる、といったメリットもあります。

植物工場にて生産されている野菜のうち、85~90%以上は「リーフレタス」となります。特に、リーフレタスを量産しているような大規模施設では、1粒のコストは高いが、作業性という点で「コート種子」を選択しています。

 

コート種子の特徴と注意点

コート種子は、天然素材の粘土鉱物にて、種子をコーティングすることで、種子1粒のサイズが大きくなり、均一化できるのが特徴です。1粒サイズが大きくなることで、播種(種付け)する際の作業性が飛躍的に向上します種子サイズが均一化することで、穴の開いた播種器(自動・手動)にて、大量の種子を同時に播種(種付け)することも可能です

 

コート種子(コーティング種子, ペレット種子)

  • 1粒が大きい・均一サイズで播種しやすい
  • 生種(きだね)より値段が高い
  • 栽培に少し技術が必要
  • 対応する播種器が多く、比較的 安価に入手できる
  • 植物工場では「リーフレタス」が主

 

植物工場の作業割合の中で、播種(種付け)は大きな割合を占めています。各社、半・完全自動化の播種装置や、手動で対応できる簡易的な播種器など、多くの商品が販売されておりますが、「生種」(きだね)にも対応している商品より、1粒が大きく取り扱いやすいコート種子用の播種器の方が、安価に入手することができます

多くの商品が市販されているが、以下の写真は「阪中緑化資材による手動播種器」。完全に人の手で播く際にもコート種子は、生種(きだね)よりも作業が行いやすい。

植物工場で使用する種子の種類や価格、保存方法などの注意点

コート種子に必要とされる栽培技術

コート種子を播種・発芽させる際には、生種(きだね)より少し技術が必要となります。しっかり対処することで、植物工場にて使用されているコート種子(リーフレタス用)では「95%」以上が発芽します。

① 種子や培地(スポンジなど)に、しっかり吸水させること

② その後、コート種子に「切れ目(クラック)」が入り発芽する

③ 切れ目(クラック)が入ると、種子は水没させないこと

④ 発芽次第、できる限り早い段階で(弱い)光を照射すること

コート種子は、しっかり吸水させないと「切れ目(クラック)」が発生しないため注意が必要です。種子や培地(スポンジなど)に吸水させ、高湿度条件下で管理すると、コート種子は通気性を確保するため、切れ目(クラック)が入り、最初は白色の芽が発芽してきます。

植物工場で使用する種子の種類や価格、保存方法などの注意点

レタスのコート種子、発芽には光が必要なのか?

発芽して芽を出すためには「酸素」も必要です。吸水が重要だからといって、切れ目(クラック)にも水が浸かった状態で、水没すると酸欠状態となり発芽しにくくなります。また、発芽した後は、弱い光で問題ないので、できる限り早い段階で照射させることが重要となります。

光を当てるタイミングが遅くなると、植物の茎ばかりが伸び・ヒョロっとした状態(=徒長, とちょう)になる可能性が高まります。

そもそも、レタスは発芽に光を必要とする好光性種子となります。しかし、植物工場にて、広く利用されているリーフレタスのコート種子は、こうした「光発芽性」の特性を欠如させた品種改良(※)が行われているため、播種(種付け)の段階では、暗所でも問題無く発芽します

※ 発芽に光を必要とする種子もあることから、購入する際、各種苗会社へお問合せ下さい。

 

種子の保存方法

植物工場における施設運営の中で、意外と管理が行われていないのが農業資材の保管です。特に種子は【 低温 & 低湿度 】にて保管することで、通常【 1~2年間 】は使用可能です(品質を維持したまま)。

例えば、以下の写真は、他の農業資材(肥料など)と同じように空調の無い倉庫に種子を保管後(夏場)、冬に播種した際の結果です。調達した当初は、発芽率100%に近い状態でしたが、播種した種子の2割程度しか、次の育苗ステージに定植できない結果となりました。

 

32個のコート種子(リーフレタス)を種付け [保管が悪い状態の種子]

  • 44%:14個発芽(腐らずに発芽したもの)
  • 22%:7個が苗として利用できるが、苗のサイズにもバラツキあり

植物工場で使用する種子の種類や価格、保存方法などの注意点 植物工場で使用する種子の種類や価格、保存方法などの注意点

 

一般的な植物工場の発芽率・育苗割合

植物工場にて広く流通しているコート種子(リーフレタス用)は、最適な方法で保管・栽培管理することで「95%」以上が発芽します。発芽した植物株は、全てが育苗用として利用できるわけではなく、あまり育ちの悪い苗も発生します

  • 発芽率(コート種子,リーフレタス): 95%以上 [ほぼ100%]
  • 育苗への利用率: 80%前後 [7割程度の施設もある]

こうした苗は早い段階で取捨・選別する必要があります。丈夫で生長が均等な植物株だけを定植することで、その後の歩留り率向上にもつながります。周囲の植物株より生長が遅く、廃棄する結果になれば、今までの電気代などランニングコストが無駄になってしまいます。よって、早い段階で歩留りが悪くなる原因を無くしておく必要があるのです。

植物工場で使用する種子の種類や価格、保存方法などの注意点

植物工場で使用する種子の種類や価格、保存方法などの注意点
同じサイズに生長した丈夫な苗だけを選び、育苗パネルに定植する

95%以上の種子が発芽しますが、育ちが悪い苗は、プラント設備や栽培技術・ノウハウに関わらず、少量は発生します(種子の特性上)。それでも、できる限り均一で丈夫な苗をつくり、次の育苗ステージへ定植させる必要があります。

農業において苗づくりが「5~8割」とも考えられており、極論を言えば、丈夫な苗さえ作ってしまえば、あとは栽培管理が悪くても収穫できる、といわれるほど、苗づくりは重要なプロセスといえます。

 

植物工場の種子価格・コスト

完全人工光型の植物工場に特化した専用種子の開発は行われていませんが、太陽光利用型の植物工場も含む、水耕栽培に適した「リーフレタス」の種子は、種苗メーカーが開発し、市販されております。

各社が販売する「リーフレタス」(コート種子)について、最適な栽培環境や、収穫時の形・大きさも若干、異なりますが、代表的な商品を以下に記載しておきます。

 

リーフレタスの中にも、グリーンリーフやフリルレタスなど複数が存在

リーフレタスにも「グリーンリーフ、フリルレタス、ロメインレタス」など複数の種類があります。中でも、一般的なリーフレタスである「グリーンリーフ」と、葉先に特徴のある「フリルレタス」の2種類について紹介しますが、スーパー等では様々な名称で販売されているので、明確な区別をする必要も無いかと思われます。

植物工場で使用する種子の種類や価格、保存方法などの注意点
グリーンリーフ。スーパーでは「リーフレタス」や、葉先に赤みがある「サニーレタス」など、様々な名称で販売されている。グリーンリーフでも、葉先に特徴があれば「フリルレタス」として販売されている場合もあり、明確な基準や区別も無いのが現状である。
植物工場で使用する種子の種類や価格、保存方法などの注意点
フリルレタス。葉先に切り込み(ギザギザ)があり、パリッとした食感が特徴。

 

種苗会社による代表的は商品[コート種子]

  • 中原採種場 【ハイドロレタス】(グリーンリーフ, フリルレタスの両品種あり)
  • タキイ種苗 【マザーグリーン】(グリーンリーフだが、フリルレタスに近い)
  • 雪印種苗  【フリルアイス】(フリルレタス)

【 】内は各社が販売している商品名となります。どの種苗会社の商品(コート種子)でも、インターネットで調べると、フリルレタス系は【 5,000粒@10,000円~12,000円程度 】グリーンリーフ系は【 5,000粒@8,000円~10,000円程度 】にて販売されている。

植物工場で使用する種子の種類や価格、保存方法などの注意点
中原採種場による「水耕栽培に適したリーフレタス・シリーズ」清水屋種苗園藝ホームページより。
  • フリルレタス系(コート種子) : 2円~2.5円 / 1粒
  • グリーンリーフ系(コート種子): 1.5円~2円 / 1粒

市販されている商品は、上記のような価格帯で販売されております。弊社でも、同じ商品を業務用サイズで格安販売しておりますが、フリルレタス系(コート種子)でも【 1.5円 / 1粒 】となり、コート種子については、1粒あたり1円以上の費用が必要になります

一方で、コーティング加工が行われていない「生種」(きだね)の場合は、品種によっても異なりますが0.1円以下 / 1粒 】(場合によっては 0.01円単位の種子もある)となり、10分の1以下の費用で調達することが可能です。

 

植物工場における種子コストは、最重要項目ではない

仮に弊社にて種子(フリルレタス, コート種子)を「1.5円/1粒」にて提供した場合、1日1,000株を生産する植物工場では、年間のランニングコストは【約55万円となります(※)。

一方で人件費は、作業員として平均6名(1日6時間)が必要となり【年間 1,000万円】(※)以上が計上されます。その他、大きなウェイトを占める電気代も【年間 1,000万円】(※)以上が必要となり、こうした項目と比較すると、種子のランニングコストは小さく、最重要項目とはいえません。

植物工場で使用する種子の種類や価格、保存方法などの注意点
ベビーリーフ用のバラマキ密集栽培の様子
植物工場で使用する種子の種類や価格、保存方法などの注意点
バラマキ密集栽培による収穫前の「マスタードリーフ(からし菜)」の様子

それよりも優先されるのは「人件費」であり、植物工場において、省力化が実現できる(作業員の人数を減少させることができる)「コート種子」を選択することは正しいと言えるでしょう。ただし、ベビーリーフのようにバラマキ密集栽培を行う場合は、大量に種子を使用するため、種子コストも少し考慮する必要があるでしょう。

結論としては、たとえ「1粒1円以上するコート種子」であっても、大きなウェイトを占める人件費を抑え、省力化が実現できるのであれば、費用としては高く無い(=1粒1円以上の価値がある)ということです。

(※) 育苗への利用率や、歩留り率などの細かい条件は割愛しております。人件費は作業員のみで、工場管理者は除外しております。また、電気代には光源、ポンプ、空調など全ての費用が含まれており、20Wの植物育成用LEDを16時間照射・18円/kWhにて計算した場合を想定しております。